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ルージュ・エ・ブラン


 何と言うことだろう、こんな悲劇が有り得ていいのだろうか。否、許される筈がない。

 かつて命あったものがその営みを容易く奪われたまでは、致し方のない事と諦める事も出来る。何故なら命あるものは須らく、いつであれ必ずその終わりを全うする時が訪れるのだから。しかし、その尊くも儚い命が紅蓮に陵辱されるなど、在ってはならないのではないか。

 この純白の舞台の上に深紅の涙が落ち、緋色に染まる時、世界は闇に包まれてしまうというのに――。



「誇りを守るために武器を取る、たったそれだけの行為さえ許されないと言うのか……神よ……」
「ほれ、何ぶつくさ言ってんだ、早ぐ食え! 冷めっぺし!」
「―― いって! 何すんだ、殴っこどねっぺさ!」
「あっぺとっぺなこど言ってねえで早ぐ食えって言ってんだ。母ちゃんがせっかぐおめのために洋風なもんつぐったってのに。ちゃっちゃと食え」
「トマト入れんなっつったべや!」
「好ぎ嫌いしてっから背え伸びねんだべ、今年のはよぐできたから甘えし食えっぺ」
「野菜が甘いとかいらねって何回言ったらわがんだっこの! それに背え伸びねえとが言うなや! まだ伸びっぺし! 男の成長期はこれがらだっつの!」







  了








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