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この輝けるくそったれな世界


 ああ、今日はなんて日だろう。さっきまでの夕立のせいで西日の照り返しが酷い。ここ数日飯にありつけてないからだは濡れたぼろ雑巾のように重い。ようやく見つけた日陰さえ、先客がいて見過ごすだけだ。

 こんな俺でも、生まれた時は、きっと祝福もされたんだろう。けど、今は世界に拒まれている気がしてならない。足元のアスファルトは湿った熱気を立ち上げて、伏せることさえ許してはくれない。祝福してくれた人の顔も思い出せない。最後に誰かと言葉を交わしたのはいつだったろうか。それは祈りだったろうか、呪いだったろうか。

 もう目の前すらかすんで見えたその時、俺を救い上げる手があった。違う、掬い上げる、だ。正しいのはどっちだ?

 救世主。そんな言葉が浮かんだ。そんな存在、今まで信じたこともないのに。それでも、信じるに値するだけのぬくもりがそこにはあった。この手は、俺の世界を救ってくれるかもしれない。信じてみよう、もう一度だけ。俺を求めてくれる誰かがいる、このくそったれな世界を。

「ママ! この犬、うちで飼ってもいい?」







  了








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