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この薄暗くにぎやかな世界


 今日はあの山に登ろう。そう決めて、早速僕は冒険に繰り出した。ひとつ伸びをして、えいやっと足に力を込める。広くて茶色い山肌は、僕の爪を滑らせる。なかなか険しいな、一度では登れそうにない。

 そういうこともあろうかと、僕は第二の道を選ぶことにした。こっちには崖越えが待っているけど、それに怯える僕じゃない。まず乗り慣れた背の低い本棚、それから少し高いタンスへ。ここまでは大丈夫。さあここで難関、崖越えだ。一番高い山、クローゼットとの間にはドレッサーがあって、そこが切り立った崖になっているのだ。

 だが僕は決して臆しない。ためらう者に頂点は拝めないのだ。僕はぎりぎりまでからだに力を込め、渾身の跳躍を見せた。

 天井との隙間に、見事着地。今までにない高みからの眺めは格別だった。住み慣れた部屋が、まるで違った姿を見せる。これだから冒険はやめられない。

 まだまだ僕の世界は広いのだ。だって、ママさんたちが出て行くあのドアの向こうはおろか、家中の全てを巡ってすらいないんだから。僕の毛並みがきっちりそろい、肉球が固くなる頃、僕はきっといっぱしの冒険家になってるはずだ。そんなことを考えながら、僕はからだを丸めて夢の世界へ飛び込んだ。またたびの夢なんか見られると、最高なんだけど。







  了








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