ドアが開く。開いてしまう。私は腕で作ったささやかなバリケードにすがることしかできなかった。

 ドアの開くその音が、処刑人の足音のように深く重く響いた。

 ドアの向こうから現れた男は、感情が欠如しているような空虚な目で私を見ていた。その目に昏い光が宿り、いやらしい笑みが顔中に浮かぶ。

「きれいだ」

 男は嘗め回すように私を見た。私は必死で体を隠したが、それは男を煽る意味しかなかった

「本当に、きれいだ」

 背中に当たるバスルームの壁が冷ややかだった。いくら吸っても空気は肺に入ってこない。

 男は背中に回していた右腕を前に差し出した。包丁が、握られている。

「どうして引っ越したりなんかしたの? 捜したよ」

 後退ろうとする私を、背中のタイルが嘲笑う。

「もう、逃がさないよ」

 自分の血の気が引く音が、聞こえた。

「これからは、ずっと、一緒だよ」






  エピソードBBA 「これからは、ずっと」









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