アタシは一糸まとわぬ姿でバスルームを出た。ただ覚悟だけをまとって。

 ありのままの、アタシを見て。嫌われてもいい。アタシは、アタシでしかいられないから。

 彼がアタシを見る。アタシは見つめ返す。

「アタシ……本当は、佑司っていうの」

 はらはらと涙がこぼれる。悲しい。苦しい。痛い。

 どうして、アタシは男なんだろう?

 止まることなく流れ続ける涙に、飲み込まれてしまいそうだった。きっと、そんな姿だって滑稽なのだ。いい歳した男が、めそめそと泣いている。しかも裸で。でも、それがアタシなのだ。偽りのない、本当のアタシ。ただ彼を愛する、ありのままのアタシ。

 でもアタシは、ただごめんねを繰り返すことしかできなかった。

「――いいよ」

「……え?」

 アタシの口から、声が漏れた。彼は真っ直ぐにアタシを見ていて、アタシは目と耳を疑わずにはいられなかった。

「今日子なら、構わないよ」

 彼はそう言うと、アタシの体を強く強く抱き締めた。未だに信じ切れずにいるアタシに、少しずつ幸せが染み込んでくる。

「本当に……本当に、いいの? だって、アタシ、男なんだよ?」

 彼は首を振ってみせた。

「俺が好きな人は、変わらないよ。男でも、佑司でも……それが今日子なら、いいんだ」

 そう言った彼は、最高の笑顔を見せてくれた。思わずアタシも笑い、また泣いてしまいそうになった。

 アタシはこれからも、彼の隣で笑っていられる。

 その幸福を噛み締め、アタシは彼を両手いっぱいに抱き締めた。






  エピソードADB 「最高の笑顔」









return to start...