アタシは裸のままバスルームを出た。アタシを目に留めた彼は、一瞬にして凍り付いた。無理もない。彼の目に映るアタシは、濡れ光る男の肉体なのだ。その視線は、アタシのありのままの下半身にロックオンされている。
「俺は、男なんだよ」
アタシは彼には聞かすまいと思っていた地声で、そう告げた。
駄目、駄目なの。アタシじゃあなたを幸せにはできない。アタシじゃ駄目なの!
アタシは魂の叫びを内に留め、厳しい顔つきで彼を見つめた。
やがて彼はよろよろと歩き出し、何も言わずに部屋を去った。アタシはいつまでもその後ろ姿を見ていた。
彼を思いながら、アタシは一人ぼっちの部屋で呟く。
アタシは、一人で生きていくわ。
あなたも悲しまないで。
互いに想い合った日々は、決して嘘ではなかったから。
エピソードADA
「悲しみを胸に秘め」
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