さっきも調べたけれど、ドアに開かない原因は見当たらなかった。ドアもノブも壊れているようには思えない。なら、どうしてドアは開かないんだろう? 私は薄ら寒さを感じながら立ち上がった。

 くすくすくすくす……。

 どこからともなく聞こえた笑い声に、私は動きを止めた。背筋をさっと涼しさが走る。声は反響しているのか、部屋中から聞こえた。子供の、声だった。

 私はじわじわと昏い気分が染み出すのを感じた。

 突如暗闇の中に放り出された私は悲鳴を上げた。自分の鼓動が耳を打つ。私は湯船に浸かった。

 ……何かおかしい。今、私は座ろうなんて思わなかった。立っていられなかったわけでもなかった。

 私は湯船から、バスルームから飛び出ようと思った。

 ――が、私の体は言うことを聞かなかった。お湯が、重いのだ。私が必死で上がろうとしても、体は沈むばかりだった。

「――助けて!!」

 近付いてくる水面を、私はおののきながら見つめることしかできなかった。

 ――自分の慟哭が、耳を劈いた。

 水面に浮かんだ顔。

 私は叫び続けた。

「助けて! 誰か助けて!!」

「わたしもね、そうさけんだの」

 また声がする。さっきよりも近くから、はっきりと聞こえる。湯船の縁にかけた手も、もう持ちそうになかった。

「そうしたら、おゆをたくさんのんじゃった」

 波立った湯が口に飛び込み、私は咳き込んだ。

「でも、おかあさんはゆるしてくれなかった」

 不意に陰った声は、私の体を湯に沈めた。体が全て湯に浸かっているのにも関わらず、少女の声は聞こえた。

 少女は、湯の中にいた。私と同じように、全身を湯に浸からせて。

「ねえ、さみしいよ」

 少女は私の上に乗り、私を見下ろしていた。

「――おねえちゃんも、こっちにきてあそぼうよ」

 私は、

  A.少女を振り払おうと腕を動かした。
  B.少女を抱き締めようと腕を伸ばした。