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雪天十三夜  -thanks for find me-

 ひんやりとした月夜だった。雲間から月明かりが冴え冴えと差し込む高台に、小さいが立派な家が建っていた。少しくすんだ赤い屋根の上、その特等席に、一匹の猫が佇んでいた。首輪はついていない。猫は静かに浮かぶ月を、黙って見上げていた。
 心配、しているだろうか。
 猫の中に、様々な顔が浮かんだ。猫は誰にも飼われてはいなかったが、その分、多くの人を知っていた。そのほとんどが一期一会だったが、中には自分に目をかけてくれたり、逆にこちらが放っておけなかったりして、顔見知りになる相手もあった。
 自分を心配してくれるだけのゆとりが、彼らに訪れているだろうか。
 猫は月に向かって一鳴きしてみた。小さな声は凍てつく空気に滲む。それは誰にも届かない。それでも、いつかその声を受け止めてくれた存在の顔をくっきりと思い出させてくれた。泣き顔が笑顔になるのを、迷いのある目に意志が宿るのを、単なる優しさに心がこもる様を、思い出させてくれた。それは、紛れもなく誇りだった。
 きっと彼らなら大丈夫だ。
 もう、自分がいなくても。
 ふわりと鼻に冷たい風花が降りて、にゃ、と声を上げる。雪が降り始めたらしい。そろそろ月も顔を隠すだろう。
 行くとしようか。
 殊更自慢げに、野良猫は尻尾をついっと上げた。今、世界で一番空に近いのは自分だろうな、と思いながら、今まで自分に居場所を与えてくれた全てに最後の感謝を込めて。

*サイトアクセス555hits リクエスト作品
  御題 「月が出てるのに雪が降ってる状況」

 神無し様、555ヒット報告ならびに御題提供ありがとうございました。
 何と言いますか、微妙に御題を消化しきれていないような気も。
 わかりやすさよりも、思わせ振りを取りました。その方が好みなので。
 皆様の中で、色々と思いを馳せて頂ければ幸いです。

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