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chicken in the kitchen

 彼女はいつも台所でびくついている。私の食事を用意する時も、ガスレンジの火にびくつき、缶詰めの切り口にびくつくのである。
 苦戦の末に皿の上に盛られた食事に私が近寄ると、彼女は期待を込めた笑みで私を見つめる。私はさほど期待せずに、すました顔で食事を口にする。残念なことに彼女の料理の腕はいまいちなのである。
 今日の食事も、まあいつも通りの出来だった。彼女の名誉のために言うが、決して不味いわけではない。断じて不味いわけではないのだ、が。
「どう?」
 彼女は私の顔を覗き込み、やはり期待した眼差しを向けてくる。
「美味しい?」
 相変わらずの、どこかびくついたその目。
 私は一気に食事をたいらげた。さも最高に美味くて我慢できないとでもいうように。空にした皿に向きながら彼女を盗み見ると、心底嬉しそうに笑っていた。
 まったく、我ながらお人好しだと思う。彼女にはどうにも甘くなってしまうのだから、情けない。でも、あの味見だけで満腹になってしまう様だとか、傷だらけの指を隠そうとする様だとかを見てしまったら、きっと誰だってある程度は情にほだされるに決まってる。
 しかし、私はこうも思うのだ。私がにゃあと鳴いてみせるだけで愛おしそうに毛並みを撫でてくれる彼女こそ、私の、世界で一番愛おしい人なのだから仕方ないか、と。

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