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あと一時間だけ

 困ったな、と僕は携帯電話の画面を覗き込みながら、独り言ちた。
 画面に出ているのは、僕の誕生日と二十三時きっかりの文字。ちょっと操作して、メールの問い合わせをする。新着Eメールはありません。
 困ったな、と僕はもう一度呟く。明日は朝が早く、もうそろそろ寝ないとつらいのだ。あいにく、僕は一日六時間の睡眠を死守しないと駄目なたちなのだ。
 でも。
 僕は携帯電話の画面とにらめっこを続ける。誕生日を祝ってくれるメールは、少なくはなかった。今度何か奢ってやるよ、また一つおっさんになったな、月日が経つのは早いよねえ。雑談みたいなメールでも、からかってくるメールでも、届くだけで嬉しかった。誕生日って、そういうものだ。自分がここにいることを、教えてくれる。自分がここにいることを、祝福してくれる。
 時計を見ると、五分しか進んでいなかった。いくらなんでも、と思いながらも、もう一度問い合わせてみる。新着Eメールはありません。
 そりゃあそうだよ、いくらなんでも五分で事態が変わるとは思っちゃいない。それくらいわかってる。
 でもきっと、僕はまた数分もしないうちに新着メールの問い合わせをしてしまうだろう。こんな深夜に電話が来るほど、彼女とは親しくないから。今は、まだ。
 本当は会いたい。無理なら電話でもいい。それも駄目なら、せめてメールだけでも。
 一年に一度の誕生日なんだ、それくらい望んだって罰は当たらないと思う。
 もし、彼女が、僕がこの世にいることを、ほんの少しでも喜ばしいことだと思ってくれるのなら。
 その知らせを、僕はあと一時間だけ待つ。
 眠い目をこすりながら、着信音を心待ちにして、あと一時間だけ。

*サイトアクセス233hits リクエスト作品
  御題 「困ったな」、「23」

 euko様、233ヒット報告ならびに御題提供ありがとうございました。
 「弐参さん」で233ですか。うん、アリですよ、そういうのも。うちのサイトならではですし。
 で、「どちらか好きな方の御題で」と言われたのですが、折角なので併用しました。
 相も変わらず、報われなさそうな片恋ばかり書いている気がします。どうにかせねば。

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